歯痛・歯の異常

歯が痛むにもかかわらず、どんなに調べても歯には異常が見つからないことがあります。
「非歯原性歯痛」と呼ばれるもので、歯科以外での治療が必要なケースもあります。
歯の痛みに悩んでいる人は、歯や顔の痛みを専門に扱う医療機関を受診するのも、一つの方法です。

歯の治療をしても痛みはなくならない

歯が痛むときにまず疑われるのが、う蝕(虫歯)、歯の神経(歯髄)に炎症が起こる歯髄炎、歯のひび割れ(歯の破折)など、歯に原因があるケースです。
しかし、歯科医院で視診、触診、X線検査などを行っても、歯には異常が見つからないことがあります。
このように歯以外に原因のある歯の痛みを「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」といいます。

非歯原性歯痛の場合、歯は健康ですから、歯科治療を行っても痛みは改善せず、原因に応じた治療が必要となります。
しかし、歯科医院を受診しても正しく診断されないと、本来は不要な歯の治療を繰り返したり、抜髄(神経を抜くこと)や抜歯といった不適切な処置が繰り返し行われることになります。

また、「原因がわからない」といわれ、いくつもの歯科医院を転々とする患者さんも少なくありません。その場合、患者さんは、精神的にも肉体的にも限界に近い状態になっていってしまいます。
体のほかの部位に痛みの原因があったり、心の病気が原因のことも非歯原性歯痛は、大きく次のように分けられます。

関連痛によるもの

「関連痛」とは、痛みの原因がある部位とは異なる部位で痛みを感じることをいいます。
アイスクリームやかき氷を食べたときに、こめかみがキーンと痛くなるのも、関連痛の一種です。

痛みは電気信号となり、神経を通って脳へと伝えられます。神経は複雑に枝分かれしたり合流したりしているため、痛みの電気信号が伝わる途中で「混線」してしまい、脳がほかの部位が痛いと勘違いすることがあるのです。

歯に起こる関連痛で多いのは、筋・筋膜性歯痛です。これは、口呼吸を伴い、歯を噛みし締めるくせや過度のストレスなどによって、顔や首、肩の筋肉の緊張状 態が続くことで起こります。 筋肉を圧迫したときに歯の痛みを感じるしこり(トリガーポイント)があるのが特徴です。症
状の善には、意識的に口唇を正しく 閉鎖して、筋肉の緊張をほぐすマッサ

/ージやストレッチなどが有効です(参照:第11回「口呼吸の落とし穴」)。

顔がピリピリと痛む三叉神経痛や、帯状疱疹、片頭痛、群発頭痛、心筋梗塞、狭心症、副鼻腔の一つの上顎洞(じょうがくどう)に炎症がる上顎洞炎などでも、歯に痛みを感じることがあります。

心因性のもの

身体表現性障害やうつ病などの精神疾患によって、歯の痛みが起こることがあります。
身体表現性障害は、検査をしても異常が見つからないにもかかわらず、痛みなどの身体的な症状が長期間続く病気です。自分が何か重い病気にかかっているのではないかと恐怖感にとりつかれる「心気症」、身体的な異常がないのに強い痛みが続く「疼痛性障害」、30歳以前に生じたさまざまな身体的な症状が、何年にもわたって持続する「身体化障害」などがあります。
たとえば、「歯がむずむずして、歯の中を虫が走っているから、早く歯を抜いてください。」と繰り返す50歳代の女性や、「磨いていないと歯が抜けそうなんです!」と1日何時間も歯間ブラシをやり続け、歯肉がえぐりとられた40歳代の男性の方がみえました。

精神疾患が原因の場合は、それぞれの病気に応じて、抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法、認知行動療法などが行われます。

原因不明のもの

原因不明の慢性的な歯の痛みを、「非定型歯痛」あるいは「突発性歯痛」といい、40歳代の女性に多くみられます。
歯の痛みが生じるきっかけがある場合も、ない場合もありますが、きっかけがある場合の多くは、歯科治療のあとに痛みが始まり、痛みをコントロールしようと抜髄や抜歯をしても痛みは続きます。
さらに、痛みがほかの歯に飛び火したり、顔にまで広がることもあります。

原因にはいくつかの説がありますが、今のところ、中枢神経系の痛みを処理する過程に何らかの異常があるのではないか、という説が有力です。
非定型歯痛には鎮痛薬は効かず、三環系抗うつ薬単独か、抗精神病薬との併用が有効であることがわかっています。
安易な歯科治療は、無効であるばかりでなく、むしろ症状を増悪させることも多いため、薬物治療が奏効するまでは、歯科治療はなにもせずに保留にしておくことが重要です。